2012年2月 ブルキナファソのフラニ族


[2012年2月カレンダーとプロフィールをダウンロード]

冷えた暗い早朝の空気を裂いて、いつもの祈りへの誘いが鳴り響き、15歳のファテマタは床の上で寝返りを打った。「おじいちゃん!」彼女ははたと起き上がった。毎朝、小さなモスクの尖塔から呼びかけていた彼女のおじいさんは、つい最近亡くなったのだ。それはファテマタにとってつらい思いだった。おじいさんの死後の世界について知りたい想いで悩むのだった。彼女は学校に行かせてもらえなかったが、村に訪れた人達が屋外で映写した映画を見たことがあった。それはイエスという男の話で、彼は神の子で天国への道を知っているということだった。ファテマタはその話を聞いて、深い喜びを感じたが、おじいさんが亡くなる前にその話をしてあげる事が出来なかった。もっと他の人達が来て、その話を皆にしてくれるだろうか、と彼女は思案するのだった。
有力な人々西アフリカ諸国に渡り居住しているフラニ族の人々は長い歴史と豊かな文化を持っている。昔から遊牧民で、多くのフラニ族の人々は牛や羊、ヤギ等と共に牧草地を巡り移動する。
女性達は色鮮やかな衣服をまとい、頭に乗せた瓢箪に入った絞りたての乳を売り歩く。彼女達は美しい銀細工の装身具やビーズ、ヘナを身につけ、とてもおしゃれだ。
フラニ族の約92%は回教徒だ。西アフリカで最初に回教に帰依した人々として、回教布教に大きな役割を果たした。フラニ族は口頭伝承と物語の文化であり、西アフリカ圏内政治文化のに大きな影響を持つ人々である。
人里離れた荒野に住むフラニ族の多くは、医療保険や歯科診察治療を受けられない。 子供達の多くは飲料水の汚染から寄生虫に感染し、栄養失調である。歯痛のため長い間食べる事も寝る事も出来ず、炎症から二次感染を起こす事も珍しくない。これ等問題の原因の一部は貧困だが、教育が行き届かない事からも来る。遊牧民としての伝統を守るため、子供達は学校に行かせてもらえない事が多い。

体と心私は2002年からブラキナ・ファソで奉仕して来た。毎年、この国のキリスト教牧師達と小チームを組んで、荒野に住む住民達に無料で抜歯の奉仕をしている。歯科治療を与える事が、これ迄神の教えが届いていなかった地域へ入る鍵となった。
それ迄私は、極めてまれに見かけるフラニ族の人々に惹かれ、彼等の間で働きたいと心に望んでいた。7年前奇跡的にも、あるフラニ族の指導者と会う機会に恵まれた。彼は北東ドリ市郊外の彼の率いる民に歯科治療を与えることができるので、喜んでいた。この街には、ブラキナファソ内のフラニ族の市があり、活気に満ちている。彼は又、私達に宣教活動と、夕方にはジーザス映画を見せる事も許可してくれた。
治療を始めてからの2年間は、訪れる患者は非常に少なかった。私はよく、フラニ族の子供達とアカシアの木の下で遊び、好奇心の強い村の大人達がそれを遠くから 眺めるのだった。多分、この白人の女が道具箱の中に何を持って来たのか、疑いと恐れを抱いていたのであろう。それと同時に、私は同伴のクリスチャンの牧師達が回教の指導者達や村の指導者達と霊的な会話を交わしているのに気がついた。フラニ族の文化では、話と聞くことが、主な情報伝達の手段だ。一日中実際的な形で私達の愛を示した後は、人々の心が福音に開かれた。よく、イエスは体を癒し、心を癒す事を併せて行った事を思い起こされる。

物語を広く伝える共に奉仕をしているジーン牧師は、回教徒としてニジェールで育ち、コーランを学んだ。ある日、若者だった彼は結婚式に列席し、そこで福音を聞いた。 彼はそれが真実である事、そしてイエスに人生を捧げなければならない事を悟った。ジーンが(洗礼名)キリスト教に改宗した時、彼は家から追い出され、持ち物を全て奪われ、父親から勘当された。村八分にされた彼は妻と子供をつれ,幾月か砂漠で生活せざるを得なかった。

現在ジーンは、イエスの真実をフラニ族の人々に伝える事に人生を捧げている。彼はブラキナファソ北部の教会の牧師を勤め,ドリの町にキリスト教のラジオ放送を毎週行っている。遊牧する牛飼い達は動物を追いながら首からラジオをぶらさげる習慣がある。口伝文化の社会では、 ラジオ放送は福音を広げる有効な手段だ。
伝道活動の際は、多くのフラニ族の人々がフルフルド語に吹き替えられたジーザス映画を観に集まる。映画が終わったらジーン牧師が彼等に語りかける。「死んだ後天国に行きたい人は?」一斉に手が挙がる。「どうやったら天国に行けるのかな?誰が、そこへ行く道を案内してくれるのかい?」群衆は静かに、耳を澄ませている。「誰か、そこに行った事がある人に,案内してもらえばいいだろう?」彼は神の子、イエスが天の家から出て,この地上に降り、死を克服し、天に昇り、いつか信ずる者のもとへ戻ると約束した事を語る。「イエスが道を知っている。イエスがその道だ。イエスのみが、君を天国に導く事が出来る!」

時と共にフラニ族の人々との信頼関係を築き上げ、口伝社会の中、私たちの事が知れ渡った。今年はうれしい事に歯科治療の患者が途切れなく入ってくるようになった。ジーン牧師も村々の長老達と付き合いを広げ、村のモスクの陰でジーザス映画が放映され、 多くの人達が広く荒野から集まった。
「自分の小屋の中に居たら、拡声器で自分たちの言語が聞こえて来た。何を言っているのか聞かずにいられなかったのだ」と、ある好奇心に満ちた村人が発言した。

祈りましょう・ フラニ族を始めとするブラキナファソの人々に良い医療保険と教育が与えられますように
・ 神の御霊が御子の真実をフラニ族の人々にあらわして下さいますように
・ キリスト教に改心したフラニ族の回教徒達に、迫害に立ち向かう勇気が与えられますように
・ 信仰に満ちキリスト教に奉仕する者達がフラニ族の人達に伝道を続け、情熱に満ちたフラニ族キリスト教徒達が彼等の地域に良い影響を与え続けますように。

クリス・レップ 著
渡邊美樹子 訳